黄昏と嘘
「次、移動しなきゃなんないのに暢気そうに寝てるからよ」
カノコは腕を組んでチサトを睨み返す。
「わかってるよ……」
チサトは机に両手をつき、ガタンと席を立ってノートや教科書をカバンに片付け始めた。
少人数の授業だったせいか、学生はあっという間にいなくなり残っているのはチサトたちを含めて数人しかいなかった。
「ほらほら、ぼんやりしてたら私たちが最後になっちゃうよ」
カノコは周りを見ながらそう言ってチサトを急かす。
「ぼんやりとか暢気とか、私今はそれどこじゃないんだからね」
その言葉にカノコはああ、というような顔をして少し意地悪そうにニヤリと笑った。
「昨日も?今日は?大家さんに催促された?」
私が何で今、困ってるかちゃんとわかってるじゃないの。
チサトはそう思ったけれど彼女の言葉にどう答えていいかわからずそのまま黙って片付け終わったカバンを肩にかけて逃げるようにひとりさっさと教室の出口へと向かう。
「あ、ちょっと待ってよ?」
その後を慌ててカノコが追いかける。
チサトはそんな彼女に気づいていたけれど、そのまま知らん顔して早足で歩き、次の教室へ向かう。