黄昏と嘘
「可愛いね、そのピアス」

チサトはいつもカノコにアキラについてロクなこと言われたこともなく、できるだけ平静を装って話を逸らす。

「あんな冷血先生、近づいたら危険だと思うよ?だいたいアンタって趣味悪いし、止めたほうがいいと思うけどなあ」

趣味が悪いって……、そんな言い方ないじゃない。
彼女の言葉にグサッときたけれど、でもそう答えることもできずチサトは苦笑する。

「……そのピアス、シルバー?」

それでも話を逸らして欲しくてカノコの言ってることとは全く違うことを答える。

「年だって30歳軽く越えてるんでしょ?アタシたちまだ20歳よ?一歩間違えたら犯罪だと思うけど?」

「違う、ハタチはオトナ!それにアタシ、もう21歳だもん」

 5月生まれのチサトは些細な抵抗を試みるも。

「でも見た目、チサトって完璧に未成年じゃん。アンタ、中学生っても違和感ないわよ?それに……」

その言葉のあと、何を言われるのかと考えると彼女の言葉を遮るように声が大きくなる。

「アタシもほしいなあ!そのピアスっ!」

「びっ、びっくりしたあ、何もそんな大きな声で言うことないじゃないの」

カノコは一瞬手を止めて少し驚いた表情を見せたあと、再びご飯を口に運び、一口水を飲んで言った。

「別にあんな先生じゃなくても。ここにはたくさんの男子学生だっているんだし。もうちょっと広い視線で見たら?」

「どこで買ったの?渋谷?」

「だいたい先生と学生なんて……」

いくらピアスの話をしてもアキラから話題が逸れないことにチサトはため息で返事する。
それはどんなにカノコが彼女を説得したとしてもチサトにはただの苦痛に思うだけのことだった。

「うー……っ!」

ちぐはぐの会話に先にカノコが耐え切れなくなったのか突然うなり出す。

ごめん、わかってる。カノコが私のこと心配してくれてるのよくわかる。
でも私、それでも先生のこと……。それにみんなが思ってるほど怖い人じゃないと思うんだけど。

そう言いたかったけれど、たぶん、何を言っても言い負かされてしまうような気がしてチサトは口ごもってしまう。

そしてそのまま黙ってしまった彼女に案の定、カノコはすごくなにか言いたそうな表情を見せた。
しばらく続く沈黙がなんだかいたたまれなくなってしまい、チサトは立ち上がる。

「えっと、私、次、2号館まで行かなくちゃいけないから……。先、行くね?」

咄嗟に彼女から逃げなくては、そう思った。

「あっ!もう!チサト!」

背中にカノコの声が聞こえる。

「4講目終わって帰るとき携帯鳴らすから!」

 チサトはそれだけ答え、食器の載ったトレイを持ちその場から逃げるように立ち去った。



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