黄昏と嘘
面白がって言いながらも、やはり結局カノコも心配しているようで実家に帰るようチサトに勧める。
そう、それが一番安全で確実な手段だからだろう。
でもチサトとしてはそれは最後で最後の手段として置いておいて、今は東京に残ることを諦めたくはなかった。
何か方法があるのなら、藁にもすがる思いだ。
「んなこと言ったって……。
わかるでしょ?実家からここまで来るのにどれだけ時間がかかるか……」
同郷であるカノコは実家から通うことが大変であることを充分わかっているはずなのにそう言うということはやはり手段はない、ということなのだろうか。
チサトは彼女から視線をはずしまっすぐ前を見る。
少し芝生が植えてあり、その横には桜の木が並んでいる。
今の季節は濃い緑の葉をつけているが春にはとても眺めがいい。
桜が咲いていた頃はまだこんなことになるなんて考えてもいなかった。
未来なんていうものは何がどうなるのか本当に予測がつかない。
「まあね、どのみちいつまでもぐだぐだ考えたってもうどうしようもないじゃん?」
「そだね……。いつまでも迷ったってどうしようもないし……」
わかってる、口ではわかったことを言っていても、そう自分自身に言い聞かせるように言ってもやっぱりチサトは諦めきれない。
でもカノコの言うことは正論で彼女に対し反論もできない。
しばらくしてカノコは腕時計で時間を確認した後、大きく伸びをしながら立ち上がる。
「さて、もうすぐ授業始まるし、行きますかー」
「うん……」
彼女の言葉にチサトものろのろとカバンを肩にかけ、立ち上がり並んでゆっくり歩きながら次の授業が行われる教室に向かう。