黄昏と嘘
それきりいつまでも黙り込んでいるチサトにカノコが言った。
「傷つくのはチサトなんだよ?」
「うん……わかってる」
「まあ、人を好きになる気持ちなんて他人が何言ったってどうしようもないけどね……。
私はチサトが泣くのだけは嫌なんだから」
カノコは今度は諭すようにチサトにそう言うと再びゆっくりと歩き出した。
本心から私のことを心配してくれている……。
チサトは彼女の背中を見つめる。
カノコは廊下の窓から入る風を気にしながら揺れる髪を押さえて振り返る。
「……ほら、早くしないと授業、遅れるから」
「ありがと」
チサトは笑って答え、少し距離ができたカノコの側まで小走りで駆け寄り、肩を軽く叩く。
今でさえ、ここまで言われるのだからもしカノコにアキラには女の人の影があって、とそんな話をしたらきっとすごく心配して怒リ出すのではないだろうか。
それならばしばらく黙っていたほうがいいかもしれない。
こんなにも心配してくれる彼女に対し、秘密を持つことでこころの中が少し痛むのを感じながらチサトはそう思った。