黄昏と嘘

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気づけば入梅したようで毎日のように雨が降る。

分厚い黒い雲に流れる水のように聞こえる雨の音。
こんな雨の日でなくてもどんよりといつ雨が降り出してもおかしくないような曇の日が続く。

明るい気分で過ごしたいと思っても空が暗ければ気分も知らず知らずに落ち込んでしまう。
そんな憂鬱な季節だけれど窓を伝う雨だれを見ていると雨に守られているような妙な安心感がある。
だからみんなが鬱陶しいと思うほどチサトはこの季節が嫌だとは思わなかった。

そんな月曜の1講目、いつもの時事英語研究の授業が終わり、席を立とうとしたチサトにアキラがマイク越しに彼女を指差して呼んだ。

「そこの……チェックのシャツの学生……」

え……?私……?

チサトは自分のシャツの裾をを引っ張りながら確かめる。

「私……?」

周りの学生たちはチサトをジロジロと見て興味津々な表情を見せてひそひそと話を始める。

「あの子、なんかやらかしたんじゃないの?」

「小野先生に呼ばれるなんて命が何個あっても足りないよねぇ」

「ホント、あの先生……。絶対に人間じゃないよ」

「あれでやさしかったらイケメンだしサイコーにいい男なんだけどねえ」

本当なら、アキラに呼ばれるということは彼女にとって天にも昇るくらいに嬉しい出来事だが周りから聞こえる言葉は逆にチサトをただ不安にさせた。

どうしよう……、怒られるのかな……。
なにかやったっけ…?

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