黄昏と嘘
片付けを始めてしばらくしてそチサトの部屋のドアをノックする音が聞こえた。
石田さん?
そう思ってチサトはドアを開ける。
「順調にできてる?」
「あ、はい」
チサトの返事にモモカはにこっと笑顔で応える。
「……チサトちゃんに渡したいものがあったんだった」
彼女は手のひらにのせていた小さなピンクのリボンのかかった箱をチサトに手渡す。
「……?」
「よかったら使ってね、お餞別」
不思議そうな顔をするチサトにモモカは口元に手を当ててクスクスと笑う。
「……え?私に?ですか……?
でも……」
リボンには見覚えのある高価なブランドの名前がプリントされている。
見るからに高価そうだ。
行き先も決まってないのにこんなの受け取れることできない……。
チサトが困ったような表情をしているのに気遣ってモモカが言った。
「いいのよ、本当はね、私が可愛かったから欲しくて買ったんだけど家に帰って考えたら私のイメージじゃないなあーと思って」
チサトはその小さな箱をじっと見つめる。
「だからそうだ、チサトちゃんの引越しのお餞別にしようと思ったの。
なんだか使えないからって渡すのもなんだけど……。
ね?開けてみて?」
モモカは気を使わせて申し訳ないと思ってチサトが困った表情をしていると思ったのだが、本当はチサトは嘘をついてしまい、そのうえ、ここまでしてもらったということに困った表情をしてしまったのだ。