黄昏と嘘
「うん、いつでも待ってるから」
モモカがそう答えたときバスの乗車案内のアナウンスが流れた。
「お待たせしました。高松方面……21時30分発……ご案内いたします……」
「あ、私のバスだ」
モモカはチケットの時間を確かめ、ぽつりと言う。
……もうお別れなんだ。
「あの、石田さん、気をつけて……」
「ありがとう。チサトちゃんも元気でね」
そう言いながらモモカは立ち上がり、続いてチサトも同じように立ち上がる。
そしてモモカはさっき言ったようにいつもの朝と同じく、片手を挙げる。
「じゃ……いってきます」
「いってらっしゃい」
チサトもできるだけ泣かないようにと、いつものように頑張って笑顔で応える。
彼女は何回も振り向き、チサトを確かめながら手を振る。
彼女がバスに乗り込むところまで見送りたかったけれど、やはり寂しさのせいでできず足はそこから進まなかった。
ふたりの間に人がたくさん流れあっという間にモモカの姿は見えなくなってしまった。
もうバス乗ったのかな……。
それから少ししてバスのエンジン音がして、ゆっくりと発進し始めた気配がした。
それでもしばらくそのまま立ち尽くしていたけれど、もう本当にこれでお別れなんだ、と改めて思うと淋しさが一層こみあげてきて胸の奥がきゅうっとなった。
途端に見えるところまでバスを追いかけて見送りたい、そんな衝動に駆られる。