黄昏と嘘

「総合教育の授業はこうしていろんな子と会えるから結構楽しいよね?」

確かに彼の言うとおり、総合教育の授業になるとチサトの在籍する学部以外の学生もたくさん履修しているので学生もバラエティに富んだ人間が多い。

それにしてもさっきから必死になって無視しようとしているというのに、この男子学生はお構いなしにニヤニヤと白い歯を見せて笑いながら話しかけてくる。

彼にとっての総合教育の授業はそういうものかもしれないけれど、チサトにとってはただ受けないと単位がもらえないから仕方なく受けてる、そういう授業なのだ。
本音を言えば1週間ずっと、毎日「時事英語研究」の授業でもいいくらいだといつも思っている。
そんな喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。

「ねぇ、今度俺らと合コンしない?」

よっぽどチサトのことが気に入ったのか、男子学生は彼女の気持ちと裏腹に陽気に、軟派に、話しかけてくる。それでも必死で無視するチサトだったがどうやらそれもそろそろ限界がきたようだった。
彼女の持っているシャーペンを握り締める手が震え始める。

落ち着け。落ち着け。
とりあえず今は授業に集中しろ。

チサトは自分に必死になって言い聞かせる。

「4対4くらいでどう?」

誰が合コンなんかやるって言った?
何勝手に話すすめてるんだ?

「……やりませんっ!!」

とうとう我慢の限界超えた彼女は授業中であるにも関わらず立ち上がり彼を睨みつけながら大声で言ってしまった。

しんと静まり返った教室の中、チサトの声だけが響く。
教壇の先生は汗をふきながらびっくりしたように彼女を見て言った。

「…なにを…やらないんですか?」





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