黄昏と嘘

チサトはたまらなくなってたくさんの人をかき分け急いで大きな通りまで出てバスを探す。

もうバス行っちゃった?
どこ?

息を切らせて必死になってキョロキョロと道路を見渡すが、バスは見当たらない。
大きなバスなのに見えないということはだいぶ遠くまで行ってしまったということだろう。
なのにチサトはいつまでも道路を見つめていた。


そして、ゆっくりと、気持ちは現実に戻る。

はあ……。いつまでも道路見ていたって何がどうなるわけでもない……。
石田さん、これからはもういないんだから。
なんだか気が抜けちゃったな。
これから私、どうなるんだろう。

でも彼女はいつまでも感傷的になっている場合ではないのだ。
チサト自身も大学がもうすぐ夏休みになるからそのあとは実家に戻る。
まさか実家にあのダンボールを持って帰るわけにもいかないから、なんとかそれまでに荷物だけでも行き先を見つけておきたい。
来月があの部屋の解約日だと言ってもあの大家のことだ、きっと早く荷物をどうにかしろ、新しい住所はどこだ?と言ってくるに違いない。

それに結局、新しい住所のこともモモカには知らせなかった。
いや、正確には住むところも決まってないのだから知らせたくてもできるはずもない。


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