黄昏と嘘

「ねぇ……、ちょっと?」

不意にチサトを呼び止める男性の声が聞こえた。
チサトはその声に振り向いたものの、そこに立っている男性には全く見覚えがなかった。
どこかで会っただろうか、そう思いながらその男性をゆっくりと上から下まで確認するようにまじまじと見てみる。

でもやはりわからない、記憶になどなかった。
そもそも彼のような派手でいい加減そうな男性はチサトの知り合いの中にはいない。

「ホラ、俺。覚えてない?」

なのにその男性は自分の顔を指さしながらニヤニヤ笑って馴れ馴れしくチサトに声をかける。
けれどどう考えてもチサトにはわからない。
彼女はとにかくこんな人間と関わっちゃロクなことにならないだろうと思い、一礼だけしてまた歩き出す。


「ねえ、待ってよ?」

しつこいな、そう思って立ち止まり、再びそのひとの顔をじっと見るけれどやっぱり彼女の記憶にない。
もうこれはきっと人違いに違いない。

「あの、人違いじゃ……」

チサトがそこまで言いかけたとき彼の耳元のたくさんのピアスで思い出した。

あ、あのときのチャラ男だ。

チサトは以前、総合教育の「環境科学」の授業の時に隣に座った男性を思い出した。
やたら合コンとか言っていた彼。
顔についてはぼんやりとしか記憶にないがピアスに関してははっきりと覚えていた。
そんなチサトの思いだしたような顔を見て彼は口角をあげて笑った。

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