黄昏と嘘

彼女は彼の態度にため息混じりに答えた。

「私、賑やかなの苦手なんです。疲れるから。
それに特に今日はそんな気分じゃないんです」

「じゃ、今から俺ん家で飲まない?」

「え?」

何、言ってるのよ、嫌だって言ってるのは一緒にいるのが嫌だってことなの!
どこか遊びに行くとか、家で飲むとか関係ないんだから。

チサトは呆れかえってしまう。
どう言えばわかってもらえるのだろう、チサトが黙り込んだことで彼は誘えると思ったのか、さっきよりも勢いづいて話し始める。

「うん、俺、一人暮らしだからさ、だから静かにゆっくりできると思うし、誰にも気兼ねしないでいいよ?」

「そういう意味じゃ……」

そこまで言いかけてチサトは言葉を止める。

一人暮らし……。

その言葉を聞いた途端、チサトの思考回路がおかしくなったのか、それとも魔が差したのか、事の善悪もわからなくなってしまったような状態になる。

それはそれまでのよっぽど切羽詰まっていた感情がつい今しがた、モモカと別れたばかりで余計に大きくなっていったせいなのか。

それはもうチサト本人さえもわからなかった。


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