黄昏と嘘
あー、もう、さっきはあの男のせいでとんでもない恥をかいてしまったじゃないの。
授業も終わり、チサトはさっきのことを思いだし不快な表情をしながら首を左右に振る。
えーっと……それよりも、ニュースレターの去年の10月号は……。
この日は時間割の関係で授業と授業の間に1科目分の空きのある彼女は次回の「時事英語研究」の授業で使いたい雑誌を図書館にやってきて探していた。
大学の図書館はとても広く、そして奥に入ると少し暗くひんやりとして静まり返っている。
莫大な本の数、独特の匂い。
そこではもちろん、本を探したり、調べ物をしている学生もいるが、広く何をしても大丈夫だろうと思う学生もいるせいか、他にも隅のほうで眠っている学生、ひそひそと話をしている学生、恋人同士なのか男女、何をするでもなくただ身体を寄せあっている学生、いろんな学生が静かに過ごしていた。
チサトはそんな学生たちを横目に見ながら必死になって本を探す。彼女の探す英語の雑誌の本棚にはもちろん日本語なんて一言も載ってはいない。
「9月号とそれから12月号からはあるんだけどなあ」
ため息とともに思わず声が出てしまう。静かな場所での自分のその小さな声は自分にまた返ってくる。普段のチサトならもうそこで諦めるところだがやはり「時事英語研究」という授業に関するものであり、去年の10月号で取り上げていた時事問題と今の状況を比較してまとめたいと思っていた。
結局それはアキラにどうしても褒められたいという一心から。
おそらく彼が授業担当でなければ彼女もそこまで熱心に調べることもないだろう。
今は次の授業までの空き時間でまだ余裕がある。とりあえず役に立ちそうな本を何冊か抱え、彼女は適当な席へと向かう。
席はひとつひとつ仕切られブースになっているので周りを気にすることなく過ごすことが出来る。
電子辞書がないからなかなかすすまないだろうな、彼女はそんなことを思うと席に座った途端に調べようという気力が失せてきた。
でも先生のためだもの!……なんてね。これじゃ誰のために勉強やってんだか。
思わず苦笑する。