黄昏と嘘
「なっ……、いい加減にしなさいっ!」
チサトの大人げない態度にアキラもつい声を荒げてしまう。
それでもチサトは繰り返す。
「この人、サイテーなんですよっ!」
尋常ではない状況にだんだんと周りのひとたちが好奇の表情でふたりのほうに寄ってきて、ヒソヒソ声で話をはじめる。
もう、事の分別もなく、このときのチサトの頭の中は真っ白だった。
「おいっ!止めなさいっ!!」
アキラが慌ててチサトの口を塞ぐように押さえ込む。
そしてふたりを見ているひとたちに頭を下げる。
「あ、スミマセン、ご迷惑おかけして……」
チサトはアキラの手を払おうと必死になるが、彼はさっきよりも力を入れて彼女を押さえつけながら周りに謝り続ける。
そしてそのうち周りのひとたちはなんだ、ただの痴話喧嘩か、と苦笑しながら去り始めた。