黄昏と嘘
「通学できるのなら実家に戻ればいいじゃないか?」
アキラは呆れたように首を左右に振った。
「でも。
3時間近くも通学にかかるし……。
ヘタしたら先生の授業も、もしかしたら今までのようには……」
本当に実家に帰ってしまったらどんなに早く家を出たとしても1講目の授業には駆け込みになってしまうかもしれない。
それは絶対に避けたい、アキラの授業はちゃんと余裕をもって受けたい。
「……実家に相談したらきっと私の事情、お構いなしで戻って来いって言われるに決まってる。
でも私、ちゃんと勉強したいんです。
通学にそんな時間をとられたくないんです」
そう答えながらチサトは我ながらちょっといい感じで言えたな、と思った。
もちろん、それはウソではない。
ただちゃんと勉強したいのはアキラの授業だけだけれど。
そんなチサトの話を聞く彼の表情は何かを考えているように見えたが、もうチサトは自分を助けてくれなくても今以上に嫌われなければ、それでいいと思っていた。
けれど、少ししてアキラから意外な言葉が返ってきた。
「しばらくの間、僕は論文を仕上げるのに忙しい。
だから身の回りの手伝いをするという条件なら、しばらく僕のところに住まわせてやる。
但し3ヶ月の間で新居を見つけるんだ」