黄昏と嘘
・新しい住処
―――9月になり、チサトは就職課からのインターンシップの紹介のこともあって夏休みが終わる3週間ほど前に東京へ戻ってきた。
小さなキャリーケースを引っ張って。
夏休み、実家で過ごしている間、チサトは9月から本当にアキラの元で過ごすことになるのだろうか、どうしてあんなことを言ってしまったのだろうか、本来なら就活のことや勉強のこと、いろいろと考えなければならないことがあるというのにそんなことばかり考えて過ごしていた。
両親には本当のことなど言えるはずもない。
いつまで黙っていられるかわからないけれど学校のことを聴かれてもただ元気でやってるから、
とそれ以上のことは何も言わなかった。
好きな人の近くで過ごすことができる、
でも半ば強引にあんなことを言ってしまったということに少し後悔しているせいか、嬉しいことなのに心にモヤがかかったような感覚に陥ったまま悶々と今日まで過ごしてきた。
それでもやはりアキラに会いたい、早く、9月になればいいのに。
いや、9月なんてまだ来なければいいのに。
複雑な思い。
それにしても9月だと言うのにまだまだ暑い日が続く。
彼女は汗を何度も拭いながら駅からアキラのマンションまでうつむきがちに重い足取りで向かう。
「まだ影が濃いなあ」
昼近く、短く濃い自分の影を見つめながらつぶやく。
時々立ち止まってはGパンのポケットから地図を取り出し自分の位置を確かめる。
そうして10分ほど歩き、目的地であるキレイで立派なマンションの大きな自動扉の前に立った。