黄昏と嘘
待ってほしいと言ったところで待ってくれるようなひとでもないし、自分がしっかりついて行って説明を聞かないとまたとんでもないことをやらかして怒られるかもしれない、そう思って必死になってついてゆく。
「ここは僕の部屋だ。大事な資料とかあるから勝手に入らないように」
先生の部屋……。
チサトはアキラ自身の部屋を目の前にして彼のプライベートを知ったとドキドキと胸が高鳴り、ドアをじっと見つめる。
チサトがそんな状態であることにも気づかずアキラはそれだけ言うとまた歩き出そうとする。
「あの……、」
チサトはアキラの方を向いて声をかけたとき、彼の姿はもうそこにはなかった。
少し向こうを歩く彼に早くついて行かなければ、そう思ったチサトだったが、ふと隣にある部屋が目についた。
あれ?この部屋、案内してくれたっけ?
さっきぼんやりしてたその間に何か説明してくれたのかもしれない。
でも……。
「あの、先生?」
チサトは思い切って声をかけたが小さな声だったせいかアキラは振り向くこともなかった。
「あ……の」
もう一度、そこまで言いかけたところでチサトは声を止めた。
ずっと面倒くさそうな態度であった彼の表情を思い出し、もう一度、尋ねたところできっともっと嫌そうな表情をみせるかもしれない。
だったら聞くのは止めたほうがいいかもしれない。
それにここは特別、大したことのない部屋なのだろう、その時はそんなことを思い、アキラの後を歩く。