黄昏と嘘
チサトはアキラがいないことに気づいて部屋を出て、アキラの後ろ姿と部屋のその並びにあった案内されていない部屋を見た。
アキラはそんな彼女に気づいたのか、偶然なのか振り向いて言った。
「さっさと玄関先の荷物を運びなさい」
振り向いたそのときのチサトは何も気にはしていなかった、特にどんな答えが返ってくるのか、期待しているわけでもなかった。
振り向いてくれたからなんとなく、ただ、なんとなくそのわからない部屋を指差して聞いただけだった。
「……先生、あの部屋は……?」
でもアキラは一瞬、顔を歪め、そして怒りだけでない複雑な表情で睨みつけるようにチサトを見た。
その表情を見てチサトはハッとする。
たかが部屋のことだったけれどこれは怒らせたかもしれない、余計なことを言ってしまったかもしれない、そう思った。
謝ろうにもそんな隙も与えることなく「キミには関係のないことだ」アキラはいつもより吐き捨てるような厳しい口調でそう言い残し、自分の部屋へ戻って行った。