黄昏と嘘
チサトは彼のバタンと閉めるドアの音を聞きながらやっぱりそうだ、部屋のことは聞いてはいけなかったんだと理解する。
もっと先生について気遣っていれば聞いていいこと、悪いことがわかったかもしれないのにどうして私は無神経なところがあるんだろう、
このままでは増々嫌われていってしまう。
無意識にチサトは自分の爪を噛む。
さっきの表情、どこかで見たような気がする。
ああ、そうだ、あの黄昏の中で……。
あのときのアキラの姿が脳裏に現れ、チサトは胸を締め付けられるような感覚に陥る。
好きなひとと暮らすのに、どうしてこんなに緊張するんだろうか。
その緊張は好きだから、という心地よい緊張ではなく、まるで腫れ物に触るような、そんな緊張。
これから先生とどんな日々が待っているんだろうか……。
この時点でのチサトの思いはマンションに入る前に抱いていものとはもうすでに少し違うものになっていた。