黄昏と嘘
アキラはほとんど家を空けていた。
朝、起きるとチサトよりも先に大学へ行っていて、夜も帰ってくるのは大抵、夜中だった。
でもしばらく暮らしてわかったことなのだが、それもどうやら彼女の思い間違いでその実はほとんど家に帰ってきていないのだった。
それでも帰宅すると言ってもいつも夜中の1時は過ぎていた。
大学で寝泊まりするときもあるようだったし、行事などで少し遠出したときはそのままその近くのホテルに泊まっているらしい。
当然、食事も最初、言っていた通りで外食ですませているのだろう。
実際、このマンションに住んでいるのはチサトだけ、そういうことでもおかしくないような状態だった。
これでは身の回りの手伝いというよりもただ留守番しているようなものだ。
こんな状態になっているのには特に今、あの日も言っていた論文を仕上げるのに忙しい、というそれも原因のひとつになっているのだろうけれど。
あり得ないことかもしれないけれど、もしかしたら先生は私に気遣って帰らないようにしているのかもしれない。
それともただ単に私がいるから、私に対して不快な感情をもっているから帰りたくないだけなのかもしれない。
チサトは余りに長いアキラの不在にそんなことを思い始めた。
ほんとうのところはわからない。
そんないろんなことをあの家で考えるとチサトは息が苦しくなっていた。
だから、そう、アキラが帰って来やすいようにと彼女は図書館で過ごすことを思いついた。
それからチサト自身も息苦しさから解放される。
大学の図書館で残っていては遅くまで毎日残ることがどこからかアキラに知られる可能性がある。
学校以外、それなら帰宅するのに遠回りになるけれど駅前の私設図書館がいいかもしれない、そう彼女は思いついた。
遠回りになるけれど、違う、遠回りになるから。