黄昏と嘘
この図書館は。
この場所はあの時と似た光景にあえるから好きだと彼女は思った。
忘れていた辞書を取りに行った教室から見える風景とここの大きな窓から見える風景も少し似ている。
本当にあの場面はまるで別の世界だった。
昼間の白い色があかね色に変わり、その中にいた先生はまるで幻のようだったけれど、長く少し頼りない影が存在を明確にさせた。
そんな中でアキラを見つけたチサトは息をのみ、視線を彼から逸らすことができなかった。
心を奪われるとはこういう事を言うのだろう。
窓は開いていたはず。
カーテンが揺れていたから。
でもチサトには何の音も聞こえなかった。
そしてアキラの涙を思い出すと同時にわけもなくまた彼女も哀しくなった。
そんな風にあの日を反芻するように本を読むでもなく、調べ物をするでもなく、窓の近くの席に座りぼんやりと肘をついてただ外を眺めて過ごしていた。
周りの人達はそんなチサトに興味をもつこともなく黙々とそれぞれ本を読んだり調べ物をしたりと没頭している。
こうして過ごすようになって何日になるだろうか。
きっちりと時間割が詰まっているときは大学で過ごすことができるが
授業が早めに終わる日はこれといって行くところもないのでここへ必ずやって来た。
いつも同じ席、チサトは時計を見なくても外の景色でだいたいの時間がわかるようになっていた。
あの木に隣の建物の影が差し掛かったら5時になるかな。
秋は陽が落ちるのが早く、すぐに暗くなってしまう。
そして夜9時、周りの人達もほとんどいなくなって図書館が終わる館内放送が入るとゆっくりと席を立つ。