黄昏と嘘
カノコとの方はと言えば、大学が始まってからも家のことがどうなったのか聞かれるのが嫌で
「時間がないから」
と逃げてばかりだった。
電話やメールがあっても適当に交わし、曖昧な返事しかしていない。
同じ授業の時もなにかと理由を付けて時間を合わせないようにして授業中だけ一緒に過ごすようにしていた。
でもこのままの状態でいることは不可能だったし、それよりいつか不審に思われしまう。
それでも適当に交わす理由は、チサトはカノコに本当のことを話すか、話さないか、そこで迷っていたので今の時点では逃げることしかできなかったのだ。
アキラと楽しく、そんな日々であったのならばきっと迷わず、チサトはカノコにやっぱり彼は冷たいひとではなかったのだと自慢気に話していたかもしれない。
でも実際はチサトは楽しいなんて思いはない。
チサトが毎日が楽しいとカノコに言ったとしても長年のつきあいの彼女のことだ、すぐにわかってしまうに決まっている。
わかっているだけにどうしてもカノコには言うか、言わないで迷うのだった。
本当のアキラは冷たくはない、本当はやさしいひとだ、チサトはそう確信していたけれどそれを示す何か、彼女は具体的に示すことができないでいたから。