黄昏と嘘
・・・ガチャン。
静かな部屋に玄関の扉が開く音が響き、チサトはハッとする。
そして手に取っていた楽譜を慌てて服のポケットなしまいこんだ。
まだ1時にはなってないのに・・・。
アキラに嫌われていると思っているチサトは彼が帰ってくる前にはいつも自分の部屋に入り、出ないように気をつけていた。
いつも彼は深夜1時過ぎにならないと帰ってこない、ということがほとんどなのに今夜はいつもより早い。
先生、じゃ、ないよね・・・。
誰だろう・・・。
帰ってくるのはアキラしかいないのにチサトはそんなことを思う。
チサトの顔を見るときっとアキラは嫌な顔をする、そう思ってチサトは慌てて自分の部屋に逃げ帰ろうとした。
でも。
チサトは無意識に玄関へと向かう。
やっぱり、帰ってきたからといって逃げるなんておかしい。
毎日でなくても自分が起きていたなら挨拶はしたほうがいい。
どうしてそんなことを思ったのだろう。
アキラが帰ってくるか、帰ってこないか気になって1時過ぎまで自分の部屋で睡魔と戦いながら待つ毎日で睡眠不足になり、ぼんやりしてしまったせいか。
玄関先に行くと靴を脱ぐアキラの姿が目に入った。
何気ない仕草のはずなのにそれだけでチサトはかあっと顔が赤くなる。
それはきっといつも大学でしか会っていないのにこうして完全にプライベートで彼を目の前にしたからかもしれない。
「先生。お疲れ様でした。おかえりなさい」
胸を押さえながら言った。