黄昏と嘘
そしてこの言葉をかけるのは……もしかしたら初めてかもしれない、そう思った。
おかえりなさい、その言葉はモモカと暮らしていた頃、チサトがいつも残業で遅く帰る彼女にかけていた言葉だ。
チサトがその言葉をモモカにかけると彼女はいつも嬉しそうに笑って応えてくれた。
そしてそんな彼女の笑顔を見てチサトもまた嬉しくなるのだった。
別にチサトはモモカと過ごしていた頃のようにアキラにも「ただいま」と言って欲しかったわけではなかった。
特に期待していたわけでもなかった。
アキラの反応はモモカとは全く違ったもの、というのもわかっていた。
彼はチサトを見た一瞬、驚いたような表情を見せた。
いつも家を空けてたまに帰ってもいつもひとりだったから彼女を受け入れたことを忘れていたのかもしれない。
「・・・出迎えなんかいらない」
眉をひそめ目を逸らし、吐き出すようにそう言いながらチサトの横をすり抜け、さっさと自分の部屋へ行ってしまった。
チサトはそんな彼の後ろ姿を見てぼんやりた立ち尽くす。
さすがのチサトもこれには少し堪えたようだった。
大きなため息をひとつ、つく。
わかっていた、そう思っていてもチサトはもしかしたらアキラと少し話ができるかと思っていたかもしれない。
でも今の彼の反応で思っている以上に自分は嫌われているのだと痛感した。
きっと疲れているのだろう、だからあんな態度になってしまったんだろう、これ以上、自分が落ち込まないようにとそう思うようにしても彼の表情、声を思い出して涙が落ちそうになった。
「結構、私って神経、図太いはず、なんだけど・・・な」
小さな声でつぶやく。