ありふれた恋でいいから
けれど直後、思わず漏れ出た自分の心に激しく後悔した。

私の言葉に少し驚いたような畑野くんの瞳に、別れた日の彼が重なって、胸の奥がきつく抉られる。

知って、どうするの。

気持ちに区切りを付けたのは私自身なのに、今更その理由を聞いて私は何がしたいの。

ただ、何かの間違いで入れっ放しになっていただけと知ればきっと落胆して。
でももし、もしもずっと持っていたと言われたら私は。

私は…―――。




「……保険証、これでいいのかな?」

「あ…はい。じゃあ、お預かりします」


――きっと、時間にしたら数秒。

けれど永遠に続くかのように思えたその沈黙を破ったのは、畑野くんだった。
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