ありふれた恋でいいから
当たり前のようにいつも同じ時を過ごしていた日々から、努力しなければ一緒にいられない遠距離の関係。

大切にするべきその存在を、社会という未知の世界で日々奔走する俺が何よりも先に考えるということはどうにも難しくて。

会いたくても時間がない。
会おうとしても都合が合わない。

そんなすれ違いが続いた頃。




『…妊娠したの。今、3ヶ月』

『ちょっ…と待って。それってさ…』

『……ごめんなさい。私、脩二を待てなかった…』

半年振りに会った梓に、消え入りそうな声でお腹の中にいる子が俺の子ではないと告げられて。

頭を割られるような衝撃を受けつつも、心のどこかでは酷く冷静にその言葉を捉える自分がいた。

来るべき時が来たのだという自分への戒めと、離れたのは、物理的な距離だけではなかったのかもしれないという憂いと共に。
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