ありふれた恋でいいから
大通りに繋がる交差点の信号が赤に変わって、無条件に足止めを喰らう。

「―――…」

……迷ったのは一瞬だった。



会いたい。



心の奥底が導き出した答えに引っ張られるように踵を返した俺は、今来た道を戻り始める。

迷いなく進める歩みに、つんと懐かしさが込み上げた。

忘れもしない、あの高校最後の文化祭の朝。
須藤を誰にも取られたくなくて、大胆にも彼女を待ち伏せした日のことを思い出す。

彼女のどこが好きだとか、どうして好きになったのかとか、理由なんて説明できなくても。

ただ、須藤実乃という一人の女の子が好きだと言い切れる自信があった。

人を好きになるのに、想うことに理由なんて要らない。

きっと高校時代の俺は、須藤を好きになることで、そんな大事なことに気付いてたんだ。

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