ありふれた恋でいいから
病院へ続く道を曲がり、見えてきた正面玄関へと向かおうとしたその時。

建物の裏手にある職員専用通路と記されたドアから一人の女性が出て来るのが見えた。

控えめに灯されたオレンジのライトが、ゆっくりとドアを閉める動作の主を照らす。

間違いない、須藤だ。

続く偶然に驚きながら、昂ぶる心臓の早鐘を押さえつつ。

「須藤」

俺は彼女を呼んだ。





「……畑野くん?」

一瞬の間をおいて聞こえて来た声は、確かめるように俺の名を呼ぶ。

その声も。

「ごめん。話したいことがあるんだ」

驚いて丸く開いた漆黒の瞳もパチパチと瞬きする長い睫毛もあの頃と変わらなくて。

やっぱり、好きだと思った。
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