ありふれた恋でいいから
「俺さ……」

伝えたい言葉は溢れるほどたくさんあるというのに。
須藤に会えた事と、昂ぶった緊張で、鳴り響く鼓動はなかなか落ち着いてくれない。

浅く呼吸を繰り返す俺を、須藤が驚いた瞳で見つめたまま。

「具合…また悪くなった?」

心配そうに伺うから、慌てて首を振って否定する。

「いや…もう大丈夫。ホントに今日は迷惑かけてごめんな。でも、それ以上にどうしてもちゃんと謝りたくて…」


―――あの日のこと。



深呼吸ののち、真っ直ぐそう告げれば、薄暗い闇の中でも、彼女の瞳が一瞬揺らぐのが見えた。

その感情が、過去への拒絶なのか決別なのか、今の俺には判断なんてつかない。

ただ、俺に出来ることは、俺が伝えるべき言葉は。

「…あの時は、本当にごめん」
< 124 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop