ありふれた恋でいいから
其処にいるのは、セーラー服で可憐に笑っていた高校生の須藤ではなく。

微かに面影を残しつつも、大人の美しさを纏った彼女だ。

「俺…須藤と付き合えて世界一幸せだったからさ…」

けれど俺の言葉に、困惑したように表情を変えた須藤は、無言のままそっと俯いた。





冷たい木枯らしが二人の間をすり抜けてゆく。

今更寒さを避ける為に何処かに場所を移す訳にもいかず、かといってこれでこの場所から去る気も到底起きず。



「畑野くん、あのね…」


迷い、重苦しく流れる空気を断つように呼ばれた名前に再び目の前の彼女へと焦点を動かすと。

思い詰めた表情で言葉を探す須藤の瞳にぶつかった。
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