ありふれた恋でいいから
「…私ね。今の仕事、好きなの。大変だけど遣り甲斐もあるし、充実してる」

区切るように紡ぐその言葉には重みがあって。

「大学を変えたのは、確かに畑野くんに振られたことがきっかけだった。…でもね、最終的に決めたのは私だから、後悔してない」

過去を辿る言葉の端々に宿るのは、凛とした強さだった。

「司書ってね、いざ就職を考えたら求人少ないし、資格持ってるだけで就ける仕事じゃないんだ。文学部に進んでたって違う仕事に就いた確率の方が大きいの。それにね、」

流れるような台詞を一度飲み込んだ須藤が。

「…畑野くんとミキちゃんのことも、世の中にはそういうことも起こりうるんだって受け止められるくらいに…私も大人になったし」

大きな呼吸と共に続けた言葉に、頭の芯を殴られた様な気がした。
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