ありふれた恋でいいから
確かに畑野くんが同級生だということは彼が運ばれる時に伝えたはず。
だけど私が結婚することを畑野くんに伝えたのは、処置室で会った時だけ。
それなのに慶介さんがその会話を知っているということは、つまり。

「……彼を診察したのは俺だよ？実乃を呼んだ後、二人がどんな話をするのか気になって、隣の部屋で聞いてた……」


ハンドルに置いた腕に凭れるようにして、慶介さんが大きな溜息と共に告げた。


「……」


私が、どうにも見過ごせない気持ちに気付いたあの瞬間、あの場所に。

…慶介さんもいた。


「盗み聞きしたのは悪かったと思ってる。でもさ、結婚思い留まるほどのもの？ただの懐かしい元彼ってヤツじゃないの？」

苦々しそうに問い質す慶介さんの言い分はもっともだ。

青春時代の想い出に久し振りに触れて、感傷に浸って、今を見失う。

そんな単純な感情の起伏だったら、いくらでも揺れることが出来ただろう。
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