ありふれた恋でいいから
エンジンが切られ、冷たさを感じ始めた車内に、ドアロックの解除音が響く。
その音にゆっくりと慶介さんへ視線を移せば。





「…さよなら、実乃。終わりにしよう」





窓の外に拡がる暗闇を見つめたまま、抑揚の無い声で慶介さんが告げた。



「…ごめんなさい……」



強烈な罪悪感に駆られることも分かっていた。
酷い自己嫌悪に苛まれることも分かっていた。

それでも、私はこの気持ちを選んだ。






もう、あの頃の純粋な心ではないけれど。
成就を希うような単純な『好き』ではないけれど。

畑野くんを想う気持ちを。
彼を想う自分を。

もう誤魔化したりしない。
無理に忘れようなんてしない。




走り去る車のエンジン音を遠くに聞きながら、それでも泣き出してしまいそうな身体を必死で食い留める。

泣くなんて卑怯だ。
一番悪いのは私。


肌を刺す様な冷気が、足元を駆け抜けてゆく。
雲の隙間から覗く鈍色の月が、冷たい目で私を見つめていた。
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