ありふれた恋でいいから
***

――新しい年が、もうそこまで来ていた。
透き通るような冬空に昇る清らかな太陽。
煌きながら降り注ぐ光に、心が浄化されるようだった。



―――古くなったな。

その場所に着いて初めに浮かんだのは、いわばそんな感想だろうか。

思えば上京する前の日に来て以来、10年間ずっと背を向けていたのだから無理もない。
いつも静かな佇まいで存在するそこは、一年で最も賑わいを見せる新年の準備に忙しなく。
こんな的外れの時期に訪れた参拝客を気に留める様子もなかった。



細く長く続く朱い鳥居を歩き進むほどに、言葉に出来ない様々な想いが心に滲み始める。



『受験合格、学業成就、絶対同棲!』

『…会いたかった』

『私も』


合格祈願という名のひと時のデート。


『須藤、ごめん』

『俺には須藤と一緒にいる資格がないんだ』


鉛色の雲の下で、畑野くんに告げられた別れの言葉と。

―――その別れの裏にあった、真実。
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