ありふれた恋でいいから
例えば彼女がどんなに疑うことを覚えたって、妥協に甘んじることがあったって、俺にとってそれは些細なことで、彼女を想わない理由にはならない。

彼女が俺の罪の意識を軽くするためにかけた言葉だなんてのは、それが彼女の優しさ故だなんてことは、須藤と少しでも心を通わせた事があれば、言うまでもなく分かることだった。


結局彼女を忘れようなどと、簡単に切り替えられる気持ちではなくて。
……けれど須藤はもう、他の誰かと幸せになろうとしていて。
そして彼女の幸せを、俺は願っていて。




彼女を想いながら、彼女の幸せを願う。

それが、行き場の無い、治りかけた傷をわざと抉るような行為だと気付いているくせに、思考はいつも同じ場所を当ても無く彷徨い続ける。

彼女の幸せを願う俺には何が出来るのだろう。

何も出来ないと分かっていても、ここから歩き出すきっかけが欲しかった。
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