ありふれた恋でいいから
―――あの日の俺たちも、あんな風に寄り添っていたっけ。


恐れるものは何も無くて、お互いを信じ、お互いがいることが自分の全てだと思っていた、あの頃。

胸を締め付けるような懐かしさに想いを馳せながら、境内に足を踏み入れた。

多少の古さは否めなくとも、10年前とほぼ変わりの無いその場所は一瞬で過去の想い出を蘇らせる。

あの場所で、須藤を抱き締めたことも、キスしたことも、絵馬に願いを書いたことも―――。

どれも鮮明で、けれどそれらは手の届かない切なさに包まれていて。

その感情に堪えられず視線を逸らした俺の目に飛び込んできたのは。



思いも寄らない「あるもの」だった。

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