ありふれた恋でいいから
「俺…こんなの見つけたら忘れられない。須藤のこと、想い出になんて出来る訳ない…」

次第に息を整えた畑野くんから発せられる言葉が、ひとつ、またひとつと私の心を弾ませていく。


東京に戻って、畑野くんに会いに行くつもりだった。
会えるか分からないけど、どんなことをしても会いたいと思っていた。
この気持ちを、溢れるほどの想いを、彼に伝えたいから。

もちろん、まさかこんなにも早く会えるなんて思いもしなかったけど。
でも、伝えるなら、今なのかもしれない。


「…結婚は、断ったの…」



「………どうして？」


ぽつりと告げれば、少し間をおいて、同じ様に言葉が返ってくる。

伺うような、諭すような、それは丁度良い微かな余韻。

その懐かしい空気に背中を押されて。






「…高校時代の彼のことを、忘れられなかったから…」


滑り落ちた言葉は、彼の動きを暫く止めて、やがて柔らかな笑みを誘った。
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