ありふれた恋でいいから
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―――――

きつく、愛おしく、お互いの存在を確かめるように抱き締め合って、どれくらい時間が経っただろう。


「畑野くん…あのね、」


後頭部を優しく撫でる手に促されて、そっと名前を呼ぶ。


「私…あの日のこと…卒業式の夜に起きた本当のこと…、全部聞いたの」


彼の肩に身を預けたまま静かに告げれば、畑野くんはゆっくりと身体を離して私を見つめた。

注がれるのは、柔らかく、けれど真剣な眼差し。

「……ごめんなさい。私、何も知らなくて酷いこと言っちゃった…」

決して簡単な気持ちで言ったわけじゃなかった。

けれど、忘れて欲しいなんて。
ずっと隠し通してくれた彼の優しさを、結果台無しにするようなことを言ってしまったのだ。

だから、本当のことを知って、今でも好きだという気持ちを伝えたいのと同じぐらい、彼に謝りたかった。
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