ありふれた恋でいいから
誰だって大人になれば妥協や打算を身に付けて生きて行く。

全ての大人がそうだとは言い切れなくても、ずっと純粋な気持ちだけで居ることは、きっと難しい。
だからその考えを否定出来ないし、大人になった自分も否定は出来ない。

だけど、10年という時間は果てしなく長くて。
大人になった私を彼がどう思うのか、不安で。
そして彼を真っ直ぐに想えるのか、少しだけ自分に自信がなくて。
好きだからこそ、想うからこそ、疑う気持ちも案じる気持ちも生まれてしまうのだと知ったから―――。



冬の夕暮れは足早に夜の闇を連れて来る。
肌を刺す空気も、次第に鋭さを増し二人に纏わり始める。


私の言葉を畑野くんがどう受け取ったのかも分からないまま。
永遠に続くようなその沈黙にいたたまれず視線を上げれば。


「…いいよ、疑っても」

「え…?」


眉を下げて優しく微笑む畑野くんと、目が合った。
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