ありふれた恋でいいから
「………えっと…」


彼のクラスの出し物は演劇だったかなとか、もしや何かドッキリの演出の一環なのだろうかとか、回らない頭で必死に考えを巡らせたけれど。

「俺と、付き合って下さい」

彼の真剣な言葉と眼差しに、疑うとか勘繰るとかそういう類の邪推は一切排除されて。

「……はい」

夢見心地で頷いた言葉に、彼が見せてくれた一番の笑顔を、一生忘れることは無いだろうと強く思えた。

ほんの少しだけ肌寒さが勝り、温かいものが恋しくなってきた、秋の始まりの頃。

オレンジ色の花をつけ見事に咲き誇る金木犀の甘い香りが、照れて俯いた私たちの周りを包んでくれた。
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