ありふれた恋でいいから
「…ウソ、だろ……?」

ここは、多分コウの部屋。

青い毛布から何も着けていない肩を気怠そうに覗かせる吉田と、その隣に寝ていた上半身裸の俺。

自分の中にその記憶がなくても、たったこれだけの条件だけで何が起きたのか判断するには十分だった。

「みんな、は…?」

それでも、まだ何処かで嘘だと叫ぶ俺の心はこれが真実でないことを証明出来る様な何かを探して辺りを見回す。

その動きを後から追う様に迫りくる頭痛が、酷くこめかみを締め付けるけど構っていられない。

「みんな、下で寝てるよ。脩二くっついて離してくれないんだもん」

「悪い…俺、酔ってて…」

何も記憶がない。覚えていない。

愕然とする俺に、妖しげな笑みをもらす吉田は片手で梳いた自分の髪の毛を耳にかける。
その瞬間、首筋に見えた紅い痕。

「脩二、欲求不満だったんでしょ」

ゆるりと弧を描く唇から放たれる、そのダメ押しの言葉に吐き気がした。

……いや。
俺自身に、かも知れない。
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