ありふれた恋でいいから
畑野くんと私、お互いに照れ臭くて呼び合うことのなかった名前。

大学に入ったら『実乃』と呼んでもらいたいなとか、彼を『脩二』と呼んでみようかなとか。

そんな密かに抱いていた淡い願いが叶ったような、それはまさに錯覚で。
明らかに貴博に畑野くんを重ねた、ずるい始まり方。

だけどそうでもしなきゃ、この先誰も好きになれないような気がしていた私は、差し伸べられた手を握ってしまった。

二人でいる温かさを知ったら、一人でいることはとても寂しくて。
寂しさは次第に人を弱くしてしまう。

けれど求めるものに擬似したもので心の隙間を埋めたって、それはもっと虚しくなるだけだってことを。
……何処かで分かってはいたのに。
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