ありふれた恋でいいから
リバイバル上映されるだけあって、その映画は予想以上に観客を集めていた。

端の方にどうにか見つけた空席に座った私の胸をすぐに締め付けるのは、切ないストーリーとあの頃の思い出ひとつひとつ。
堪えられず一筋流した涙にまたさらに記憶が蘇る。

確か、畑野くんと観た時も私は泣いたんだっけ。

感動して、上映後もなかなか泣き止まない私に驚いた彼が、ロビーの片隅であやすように抱き締めてくれた腕の温もりや。

『大丈夫だよ、誰も見てない』
そう言って安心させてくれた彼の言葉が昨日のことの様にフラッシュバックする。

感動と感傷が綯い交ぜになった涙を指で拭って外に出れば、急に明るくなった照明が眩しくて目を顰めた。
そしてその、ぼんやりと戻った視界の先が遠くに捉えた輪郭。



驚いた顔をして私を凝視していたのは。



……あの頃より少し大人になった、畑野くんだった。
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