ありふれた恋でいいから
「ねえ、俺、ここ入ったこと無いんだけどいい?」

「え、ここ?」

カウンターに凭れていた畑野くんが指し示した場所は私がいるその内部。
確かに、閲覧する生徒と当番の生徒を隔てるカウンターの中には、図書委員でないと入る機会は少ないだろう。

それでもこんな狭いスペースに入ってみたいと興味を持つ彼の言動がなんだか可笑しくて、跳ね上げ式の扉を開けて通り道を作ると、畑野くんは珍しそうに中へ入ってきた。

「へー、これが須藤からの目線かあ」

設置された回転椅子に腰掛けてクルクルと足で回す彼の表情はまるで秘密基地に入ってきた子どものよう。

「そんなに回ってないって」

いつもより無邪気な彼に軽く突っ込んで残りの作業に取り掛かると、目が回った、なんてカウンターの上に身体を預けた畑野くんは、

「…須藤さぁ。俺が1年の時本借りたの、覚えてる?」

その体制のまま視線だけ私の方へ向けてポツリと呟いた。


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