ありふれた恋でいいから
次第に増えてきた参拝客の列。
前へ進む気配もないその流れに足止めを喰らった分、頭の中では激しい感情が交錯する。

その最中。

「…コウ。あっちでシンゴが呼んでる」

いつの間にか近くに来ていた吉田に呼ばれたコウは、ゴメンと俺に断って列を外れた。

吉田はさっきまで一緒だった女友達の元へ戻る様子もなく、ただ、俺の隣に立ち尽くしたままで、言いようのない空気が俺と吉田の周りを囲む。

吉田を問い詰めることに何の意味があるかは分からない。
だけど、ここまで聞いてしまった以上、俺には知る権利があると思う。

「あの日…本当は何があったんだよ。本当の事…教えろよ」

押し殺す様に、でも怒気を孕んだ俺の言葉に。

吉田は観念したように目を瞑り、重い口を開いた。
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