ありふれた恋でいいから
「…え?あ、うん。覚えてる。あの本借りた時でしょ?」






ーーー忘れる訳なんてない。

それは彼と同じクラスだった1年生の頃のこと。

当時も図書委員だった私が当番をしていた日に、偶然畑野くんが本を借りに来た。
しかも私がその日返却したばかりの本を。

『これ、面白いよ。私、一気に読んじゃったの。おススメだよ!』

……当番は静かに仕事するようにといつも言われていたのも忘れて、好きな人と同じ趣味だなんて舞い上がった私は、思わず声をかけてしまったんだ。





「…あれさ、知ってたんだ。俺」

ほんの一瞬昔を思い出して記憶を手繰り寄せていた私に、畑野くんは意味の捉えにくい言い方をした。

「知ってたって?」

それが本の内容だったのなら、私はかなり余計なお世話的なことを言ったものだと思う。

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