ありふれた恋でいいから
けれど。

「…俺、ホントは須藤があの本借りてたこと知ってたんだよね。話すきっかけが欲しくてわざと同じ本借りたの。あの頃から好きだなぁって思ってたから」

隣に立つ私を見上げ、ちょっとだけ早口で言い切った畑野くんは、照れ臭そうにふいと目を逸らした。

「だから、今信じられないくらい嬉しい」

「……」

そっぽを向いたまま付け足された言葉は何よりも私の心を幸せで満たしてくれて。
私もだよ、とか、同じだよ、とか。
そんな何処にでもあるような言葉じゃこの気持ちは上手く表現できない気がして。

「…ありがと、」

そう呟くと、カウンターに肘をついたまま背中を向ける畑野くんの制服の袖をキュッと掴んだ。
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