ありふれた恋でいいから
『結局さ、実乃は俺のことを見てくれてた?俺の事、好きだった?』

そう言い残して部屋を出て行った貴博と別れたのは大学4年の夏。
以来長続きしない恋愛を繰り返していた私に躊躇いがなかった訳じゃない。

どうして誰とも長く付き合うことが出来なかったのか、自分で気付いていない訳じゃなかった。

だけど、慶介さんと会ううちに、実らない想い出を抱き続けるよりも、手の中に舞い降りた温かさを大事にしたいと思う私がいた。

慶介さんが、私を包むように見つめる優しい瞳にホッとして。
8つ歳上なのに、たまに覗かせる無邪気な笑顔は私を晴れやかな気分にしてくれる。

胸をときめかせる恋というよりも、それは安らぎを感じる愛情に近かったのかもしれないけれど。

慶介さんが辛うじてゆっくりできる日曜の朝を二人で迎えるようになって、季節は2度目の冬を迎えていた。
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