ありふれた恋でいいから

「やっぱり、そうなんだ…」

年明けから漸く内科に医師が配属されることは金曜日の朝礼で聞いたばかりだ。
そのことが非常勤である慶介さんの勤務終了と繋がるのは至極容易なことで。

「…そろそろ、本格的に親父のあとを継ごうと思ってる」

一言ずつ言葉を選ぶようにゆっくりと話す慶介さんの真意が、ただ「実家の病院を継ぐ」だけの報告ではないことに私は何となく気付いてる。

２８歳の自分が、世の中でいう結婚適齢期真っ只中にいることぐらい承知の上で。
こんなシチュエーションで何も予感しない訳がない。

それなのに。

「じゃあ…今よりもっと会いにくくなっちゃうんだね」

はぐらかすように目の前の変化だけを惜しむ言葉しか出てこない自分に少し、舌打ちしたくなった。