ありふれた恋でいいから
声が聞こえてきたのはその時だった。

「すみません!外で人が倒れてるんですけど…!」

正面玄関の方から助けを求める男性の声に、緩んでいた空気がピンと張り詰める。

「実乃ちゃん、医局に連絡してくれる?」
「分かりました」

正面玄関へ向かう先輩の指示に従って、医局への内線番号を押す。
ボタンに触れる指先がやけに震えて、呼び出し音が流れてきたことに小さく胸を撫で下ろした。

『――はい、医局三原です』

すぐに電話口に出てくれたのが聴き慣れた慶介さんの声だったのも幸いしたと思う。

「あの、受付の須藤です。正面玄関前で倒れている人がいるようですので、どなたか来て頂けませんか?」

的確に状況を伝えれば、すぐ行きます、という短い返事で通話は切れる。

それと同時に、様子を見に行っていた先輩からストレッチャーの要請が飛んできた。
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