ありふれた恋でいいから
正面玄関の先に広がるロータリーには、既に到着していた慶介さんと数名の医師が意識確認のために呼び掛けている。

周りを囲まれて顔は見えないけれど、倒れているのはスーツ姿から見て男性の様で。

苦しそうな声ではあるけれど、微かに聞こえてくる返事から意識はあるのだと窺い知ることが出来た。

こんな時、処置は医師の役目であり、私たち職員は周りの対応に当たらなくてはいけない。

何事かと集まり出す人の群れをなるべく増やすまいと落ち着いた態度で宥めていれば、患者を素早く横たえたストレッチャーが静かに動き出し、私の横を通り抜ける。


―――その、瞬間。




「は、たの、くん……?」



目に入った懐かしい顔に、息が止まるかと思った。
< 92 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop